12.2 マーケティングにおける価格概念
本節では、PSMの結果への理解を深めるために、マーケティングにおけるいくつかの価格概念を紹介する。PSMは消費者の内的な価格に対する認識や基準を集計する方法である。消費者の購買に関わる最も基本的な価格概念に、支払い意思額(Willingness to Pay: WTP) がある。WTPは、消費者が特定の製品に対して「最大いくらまで払ってもいい」と考えているかを捉えた価格である。単純化された理論的世界観のもとでは、消費者はある製品の価格が、自身の WTP を下回る場合には、その製品を購入すると考えられる。
しかしながら、消費者の心理的側面を考慮すると、価格が安ければいいというわけでもない。我々の日常的な買い物においては、ある製品が自身のWTPより高いので買えないということに加えて、安すぎる価格によって、(製品品質などに)不安を抱き買いたくないと考えることもあるだろう。製品やサービスの品質が事前にわからない場合、人々はなんらかの情報に基づいて品質を類推するが、価格がその手がかりになると考えられる。このように、製品の価格が安すぎても、高すぎても買ってもらえず、どうやら消費者にとって、ちょうどいい価格幅がありそうだといえる。そして、「安すぎて不安だから買いたくない」という価格から「高くて買えない」という価格で示される、消費者が受容する(製品を買う)価格帯のことを、受容価格帯(Accepted price range)という。
もう一つの心理的側面を捉えた価格概念に、内的参照価格がある。我々の日常的な買い物を振り返ると、自身が買える価格の範囲内であっても、その価格が高いもしくは安いと感じることはあるだろう。内的参照価格は、買い手がその価格が妥当かどうか判断する際の基準となる、個人の価値観を反映した価格である。つまり内的参照価格は、「高すぎて買えない」や「安すぎて買いたくない」というほど極端な価格ではないが、自身の持っている基準から消費者自身が「これは安いな」とか「これは高いな」と感じることを捉えた価格概念である。ただし、内的参照価格は対象となる製品やサービスの価値だけではなく、消費者個人の経験や他の関連製品の価格にも影響を受けることに注意が必要である。PSM では主に、受容価格と内的参照価格を中心に分析・図示化を行う。