12.4 受容価格帯と内的参照価格帯の応用とPSM

PSM は、受容価格帯と内的参照価格帯に関わる知見に基づき提案されている価格決定手法である。PSMの特徴は、「安すぎる価格」、「安い価格」、「高い価格」と「高すぎる価格」の4つの質問に対する個人の価格水準を回答してもらう点にある。PSMでは特定の価格を提示しその価格に対する消費者の評価を得るという方法ではないことにも注意が必要である。つまり、「この製品が〇〇円だったらどのように感じますか?:1. 安い,…,7.高い」のような質問形態を取らない。

PSMでは、上記の4つの質問から得た回答をもとに、価格の変化に対する安い(または高い)と感じる人と安すぎる(高すぎる)と感じる人の累積比率を計算し図示化していくのだが、もう一点注意するべき点がある。それは、「高いと感じる人」の比率と「安いと感じる人」の比率を1(または100%)から引き、「高いと感じない人」と「安いと感じない人」についての比率を示す曲線を描画するということである。これらの高い(安い)と感じない人の比率を示した曲線は高い(安い)と感じる人の比率を反転させたもの(兼子,2014)や余事象(岸など,1999)と呼ばれている。以下の図は、「高い(安い)と感じない」という形に反転させた状態でのPSM分析結果例を表現した比率曲線である。下図のうち、“Too expensive” (青い実線)と “Too cheap”(赤い実線) 曲線はそれぞれ高すぎると安すぎる(と感じる人の)比率を表しており、“Not expensive” (青い破線)と “Not cheap”(赤い破線)曲線は高いと感じないと安いと感じない人の比率を示している。

PSM結果例

Figure 12.6: PSM結果例

PSMでは、上図内の各曲線の交点から、最適価格(\(P^*\))、無差別価格(\(\tilde{P}\))、最高価格(\(\bar{P}\))、最低価格(\(\underline{P}\))を算出する。\(P^*\) は、受容価格帯に基づく価格点である。\(P^*\)は高すぎると感じる人と安すぎると感じる人の比率が最も少なくなり、受容不可能な消費者が最小となる価格である。\(\tilde{P}\) は内的参照価格に基づく価格点である。\(\tilde{P}\)は、「安いと感じない」曲線と「高いと感じない」曲線の交点であり、安いとも高いとも感じない消費者が最多となる価格帯であり、前節 12.5 の図における \(P_3-P_2\)の範囲内だと感じている消費者が最も多い価格だと解釈できる。

それ以外の価格点の解釈は比率の余事象(例、高いと感じない、安いと感じない)を求めることで容易になっている。\(\bar{P}\) は、高すぎると高いと感じないの曲線の交点である。この点は、「高いとは思うが高すぎるわけではない」と感じる消費者が多い点である。この点よりも低い価格では高いと感じる人が少ない(高くないと感じる人が多い)が、この点よりも高い価格では高すぎると感じる人が多くなる。言い換えると、前節における \(P_4-P_3\) の範囲内だと感じている消費者が多い価格だと解釈できる。一方で \(\underline{P}\) は安すぎると安いと感じないという二つの曲線の交点である。この点は、「安いとは思うが安すぎるわけではない」と感じる消費者が多い点であり、前節における \(P_2-P_1\) の範囲内だと感じている消費者が多い価格だと解釈できる。

本節で述べた通り、12.1 節でも確認した PSM の分析結果では受容価格と内的参照価格に基づいて提示される価格水準や価格帯である。PSMは調査方法も(Rによる)分析方法も簡便であるが、それだけに結果の解釈については注意が必要である。例えば、PSMの分析結果において「最適価格」という言葉が用いられるが、この価格水準は、受容する人が最も多いことを示しており、他の文脈で用いられうる「最適」を意味しないことに注意が必要である。同様に、その他の価格帯・水準についても受容価格帯と内的参照価格帯との関連から解釈することが可能になる。PSMを利用する際には、その前提となる知識に基づき、結果に対する適切な解釈を行うことが重要になる。